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慢性疲労症候群

慢性疲労症候群って、聞いたこと無いけど、どんな病気?疲れやすい人のこと?
何か、余り大した病気じゃないのかな!?っていう印象を持たれる方もいらっしゃると思います。

こちらでは慢性疲労症候群について、わかりやすくお伝えしていきます。あなたの時間を3分だけいただければと思います。

目次

what is "Chronic Fatigue Syndrome"?

慢性疲労症候群ってなに?

慢性疲労症候群をネットで調べるとまず、下記のようなWikipediaに出会います。

そこでは、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(きんつうせいのうせきずいえん、Myalgic Encephalomyelitis(略称ME)/まんせいひろうしょうこうぐん、Chronic Fatigue Syndrome(略称CFS))は、免疫系、神経系、内分泌系の多系統の病態が関与する疾患。 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群患者が訴える主な症状は、身体及び思考力両方の激しい疲労と、それに伴い、日常生活が著しく阻害されることである。慢性疲労症候群の診断基準は、慢性疲労をきたす障害や状態、服薬状況などを除外する必要があり、仕事や生活習慣が原因でなく、十分に休養をとっても回復しないことを必要とする。貧血、甲状腺疾患、糖尿病、多発性硬化症などが症状の原因であれば除外される。」

出典:Wikipedia

 

・・・って言われても良くわからないですよね!?
そこで、ここでは、慢性疲労症候群(CFS)について、できるだけ詳しく、でも簡単な言葉で紹介していきたいと思います。
慢性疲労症候群(CFS)とは、別名筋痛性脳脊髄炎(ME)とも表現されます。
現在では、慢性疲労症候群の呼び方は、筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)と呼ぶように決まっています。
慢性疲労症候群(CFS)とは、1984年アメリカネバダ州で、原因不明の疲労感を主訴とした患者が多数発生し、それにより、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、1988年に研究チームを組織してその原因や病態を調べる際、研究対象の症例を明示する際に使用された病名です。
それ以来、原因不明の強烈な疲労感に襲われ、日常生活に支障をきたすような症状の患者さんの病名として「慢性疲労症候群(CFS)」という呼び名が使われるようになりました。
ところが、「疲労」という言葉の入った名前から、ただの疲れの一種と勘違いされてしまい、怠けているだけなのでは?という周囲からの誤解に苦しむ患者さん達が世界中で生まれ、そうした患者さん達からの声で、日本では、2016年3月、日本医療研究開発機構ME/CFS研究班診断基準検討委員会において、明確な病気の原因が明らかになるまでは、冒頭でご紹介したように「筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)」と表現するように決められました。

激しい運動や、過度な負荷のかかる作業、仕事などをした後、人は強烈な疲労感に襲われますが、通常、数時間または、数日休むことで、その疲労感は解消されます。
しかし、慢性疲労症候群の患者さんは、インフルエンザにかかり高熱が出てうなされている時に感じるような、ただ寝ているだけなのに、体中がつらく、苦しい状態や、耐えられないほどの倦怠感、疲労感が続き、時には筋肉や関節など体の節々の痛みが伴うこともあります。

近年、慢性疲労症候群の患者会が幾つも立ち上がったり、自身も慢性疲労症候群の患者として苦しみながら、同じ病気で苦しむ患者さん達の体験談をまとめてマンガにして紹介した本「ある日突然慢性疲労症候群になりました」著者ゆらりさん(合同出版社)が、出版されたりして、その大変さ、つらさ、病状を知ってもらおうという活動も活発に行われるようになってきています。

ただし、残念ながら、医療関係者の中でも、この病気のことを詳しく理解している人が多くないのが現状で、先ほどの著者ゆらりさんも、自身の症状が出てから、婦人科→内科→精神科と渡り歩き、結局的確な診断はされず、慢性疲労症候群と診断されるまでに3年もかかったそうです。
このように、慢性疲労症候群の患者さんたちが、苦しむ理由の一つに、多くの医師が、この病気について詳しく知らないという現状があります。
患者さんがつらい症状を切実に訴え、医師もそれにこたえるために、幾つかの病気を疑い様々な精密検査をするものの、何も引っかからない。
結局、最後は、「精神科」で「気の持ちよう」や、「ストレスが原因」と言って、「ストレスの元を取り除いてください」といった、無責任な診断をされてしまい、途方にくれたり、昨今ではコロナウィルス患者の後遺症の症状に似ているため、PCR検査で陰性であるにも関わらず、「コロナウィルスの後遺症に効く漢方」なる薬を飲まされている患者さんも出てきています。
しかし、アメリカでは2015年、全米アカデミーの1つである医学研究所(現在の全米医学アカデミー)が、この筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)を「患者の健康や活動に深刻な制限をもたらす全身性の重篤な慢性の複雑な疾患」と認定し、アメリカ中の臨床医(患者さんを診る医師)に、この病気について理解して臨床に臨むように発表しました。
そして、この発表を受けて、NIH(アメリカ国立衛生研究所)において、この病態やその原因について解明するための臨床研究が始まりました。
日本では、2019年に日本医事新報社からAMED(日本医療研究開発機構)研究班のメンバーによる「専門医が教える筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き」が出版されていますが、残念ながら、まだ、多くの医師は、詳しくは理解していないのが現状です。

慢性疲労症候群の症状

ある日突然、高熱や寒気、だるさなど、インフルエンザで高熱が出た時のような症状に見舞われる方もいます。

安静にしていれば、(寝ていても)そのつらさが軽減するというものでもなく、つらい時には、その状態がずっと続きます。

しかし、逆に突然、症状が治まり、安静にしている限りにおいては、周囲からは「元気になった!?」と感じられるほど、普通に話したりもできるようになります。

ただし、軽い動き(ベッドから起き上がったり、少し歩いたり)だけで、突然症状が悪化したりすることもあるのが、この病気の厄介なところです。

こうした発作的な悪化が起きなければ、1人で立ち上がって水を飲みに行ったり、時には簡単な家の掃除などもできてしまうこともあります。

しかし、気を許して行動していると、急激な発作で、突然動けなくなってしまったり、椅子に座っていることすら難しいほどの倦怠感、重さ、苦しさに見舞われてしまうこともあります。

発作時には、高熱を発症する患者さんもいれば、熱はそこまで上がらないが、疲労感、だるさから、身体を起こすことすらままならないという患者さんもいて、症状は、個人個人千差万別ですが、共通しているのは、強烈な倦怠感やだるさで、動けないという症状です。

この疲労感、倦怠感、だるさは、肉体的なものばかりではなく、思考力についても同様で、相手の言葉を聞き取れなかったり、意味を理解できなくなってしまう場合や、文字すら読めなかったり、簡単な計算すらできない程、脳機能の障害を伴う場合もあります。時には、アロマなどの香りすら、脳が刺激物としてとらえ、症状が悪化することさえあります。

 

色々ある症状の中で、ME/CFSの4つの代表的な症状(中核症状)として位置づけられるのが、

疲労(感)

痛み

関節痛や筋肉痛、頭痛など

思考障害

思考力、記憶力、集中力の低下など

非回復性睡眠

です。

非回復性睡眠とは、非常に浅い睡眠で、いくら眠っても疲労感がとれず、体がこわばって頭がぼんやりした感じで目覚めるような睡眠を意味します。

以上の4つの中核症状に加え、慢性疲労症候群には4つの典型的な特徴があります。

また、慢性疲労症候群の患者さんでは過敏性腸症候群、過敏性膀胱炎、片頭痛、シェーグレン症候群、仙骨‐腸骨関節痛などが高い確率で合併すると言われておりますので、合併症に対する注意も必要です。

慢性疲労症候群の発症のタイミング

ストレスがME/CFSを発症させるというお考えの先生もいらっしゃいますが、現在主流となりつつある考えは、発症に先行して感染症を示唆する兆候があったかどうかを重視しています。

発症する数週間~数か月前に、インフルエンザなどの感染症や、風邪をこじらせ、高熱を出したり、微熱が続いているなどという事案が先行しているかどうかを確認します。確認できない場合は、診断を保留としています。

それがきっかけで、「原因はわからないものの、脳内のどこかで、炎症が起きており、それが原因ではないか?」という仮説を立て、天野医師は2015年より、国立精神神経医療研究センター免疫部の山村 隆医師、佐藤和貴郎医師らと研究協力体制を組み、ME/CFSの診断に寄与するバイオマーカーや脳画像所見の同定を目指し頑張っています。

慢性疲労症候群の原因

ネット上で、この病気を紹介している医師やクリニックの中には、ストレスが原因と考えられているという記載があるものもありますが、正確にはわかっていません。

天野医師はストレスが原因であれば、それを除けば症状は快方に向かうはずと考え、色々治療介入をしますが、それでも症状が改善しない患者さんについては慢性疲労症候群の疑いとしています。

今、注目されている仮説は、さきほどの項目でも紹介したように、何らかの原因で、脳内で炎症が起き、それにより脳機能に障害が起きてしまっているというものです。

 

日本の慢性疲労症候群の研究は、1991年に厚生省CFS研究班(班長:木谷照夫)が立ち上がった時に始まりました。

 

病因ウイルスを見つけるための研究が精力的に行われましたが、CFSが感染症であることを示すようなウイルスや細菌を特定することはできませんでした。

 

その後、ME/CFS患者さんにおいて、脳の前頭葉を中心とした脳機能活動の低下などが報告され、2009年~2018年にかけては、厚生労働省・日本医療研究開発機構において、慢性疲労症候群の症状や病気の原因、診断基準についての臨床研究が行われました(班長:倉恒弘彦)。

 

その際、慢性疲労症候群の患者の脳内における炎症状況を特殊なPETで観察したところ、それぞれの患者が訴える症状と、脳内で炎症が起きている部分がつかさどる機能とが一致していたことがわかったことからも、炎症の理由は定かではないものの、脳内における炎症が、病気の症状の原因ではないか?と言う仮説が立てられています。

慢性疲労症候群の特徴

一般の保険診療で認められているような血液検査などの精密検査では、異常が発見されないのもこの慢性疲労症候群の特徴です。

正確な統計はありませんが、患者さんの比率で見ると7割前後が女性と言われています。

異常なつらさ、疲労感、倦怠感がありながら、全くその原因がわからない(他の明確な病気とは診断されない)というのがこの病気の特徴です。

また、患者さんは、本当に軽く動いただけで、症状が急激に悪化してしまうことがあることもこの病気の特徴です。

症状が落ち着いている時などは、安静にしていると、普通に会話ができたりして、元気になってきたように見えることもあるため、「もう治ったのでは?」とか、「ただ怠けてるだけじゃないの?」「都合が悪くなると病気になる」といった誤解を持たれてしまうこともあります。

慢性疲労症候群の診断方法

慢性疲労症候群は、一般的な保険診療の対象となる精密検査と言われる類の検査では、異常が見つかりません。

2015年、アメリカでは、慢性疲労症候群をより広い概念、SEID(全身性労作不耐疾患)という考え方にまとめ、診断のための基準として提唱しています。

その診断基準は、下記の通り、必須項目と追加項目に分けられています。

1)必ず必要になる症状3つ

a.病気になる前の通学、通勤など日常生活で出来ていた活動レベルが、大幅に低下し、それが6か月以上続いている。

b.動いたときに、倦怠感、つらさ、息苦しさ、疲労感などが著しく酷くなる 

c.睡眠障害(熟睡した感じがしない、目が覚めても回復した感じがしない) 

2)どちらかが当てはまる必要がある症状

d.認知機能の低下(脳機能の低下)

e.起立不耐症(起立性調節障害)

背中を起こした状態になると、脳への血流量が低下してしまい、途端に脳機能(思考力や判断力)が低下してしまう症状。食欲不振、寝つきが悪い、めまい、立ちくらみ、頭痛、腹痛、起立による失神、イライラ、無気力などの症状を伴うこともある。

上記1)、2)の症状を満たす場合に、SEID(全身性労作不耐疾患)であるとみなすというように発表されています。

しかし、この基準でME/CFSと診断をすると、あまりに多くの患者さんが対象となるため、天野医師はこの診断基準は用いていないそうです。

天野医師は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断基準は世界にいくつも存在しますが、国際ME/CFS学会や欧米の全ての患者団体が一致して推奨する診断基準で、最近の研究論文で世界的に使われているカナダ基準を用いています。

国際ME/CFS学会では、2012年にこのカナダの診断基準を使って、「ME/CFS 臨床医のための手引書」を発行しています。

ME/CFSのためのカナダ基準

に加え、

 

等のカテゴリーから2つ以上の症状を示すことが必須であるとされています。

また、診断にあたっては、下記のような基礎的な検査をして、疲労感や倦怠感の原因が、他の病気である可能性を排除することが求められます。

①基本的な他の病気との区別のための検査項目

②上記検査を通じてあらかじめ排除しておくべき病気

女性外来で遭遇する慢性疲労症候群と似た症状の病気

慢性疲労症候群などを診療する臨床医の間では、似た症状の病気との区別も重要になってきます。

その中でも女性外来で遭遇する特に似た症状の病気としては、下記のような疾患があります。

1)線維筋痛症

元フジテレビアナウンサーの八木亜希子さんが患い、一時治療に専念するためお休みされていました。

※線維筋痛症の治療については、下記8にて紹介する慢性疲労症候群の治療に有効な和温療法が効果を発揮する場合も少なくないことがわかっています。

2)脳脊髄液減少症

神田うのさんが、最近この病気と診断され、治療のため入院されたと発表されました。

3)更年期障害

天野医師によれば、ご本人が50歳から59歳までにかけて経験した更年期症状の中で、10年間の間に1本の論文も作成できない状態に追いやられた症状は、

①腰から下の24時間続くしびれ

②強い疲労感

③不眠

④お風呂の中でも冷えるという感覚

⑤全身の関節・筋肉の移動する痛み

だったそうです。

「今だったら慢性疲労症候群+線維筋痛症」と診断されてしまうわね」と笑われてました。本当に大変だったとのことです。

上記3つの病気は、中年女性に多く見られる病気ですが、それぞれ治療ガイドラインも出ていますので、まず、当該疾患の専門家を受診してみてください。

慢性疲労症候群の治療方法

現在、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に対する特異的治療法はありません。

ME/CFSと確定診断できる検査も存在しませんので、治療は症状を勘案しながらの対症療法となります。

4つの中核症状に対する治療

「疲労症状」に対しての治療

患者さんにとって最も大事なことは生活のペースの調整です。先に述べたように本症は労作性疾患で、労作が過ぎると具合が悪くなります。

何か活動する時には、適切なタイミングで頻繁に、休息を取ることが必要です。

多くの患者さんが、体調が僅かでも回復すると「無理してクラッシュする」傾向がありますが、「無理してクラッシュする」事を定期的に繰り返している患者さんは良くなりません。

体が回復する機会が無いからです。

病気を良くするためには、「エネルギーを節約」しながら、ゆっくりと少しずつ前進していくことが求められます。

一方で、慢性疲労症候群の患者さんの中には、休息を取り過ぎると、体がこわばり、痛み、体調が狂う方もいます。

ですので、「活動的でありながら、過剰にならない」事が重要なのです。

疲労はストレス(身体的・精神的)と密接に関連していますが、慢性疲労症候群の患者さんはストレス耐性が極めて低く、通常健康人にとってはストレスとなりえないような些細な家族や友人との対立だけでなく、デスクワーク、読書、注意力の集中、コンピューター使用等など日常の作業そのものがストレスとなり、極度に消耗します。

そのことを本人も、周囲の人も認識した上で、行動計画を立てなくてはいけません。

従来、慢性疲労症候群における疲労に対しては、補中益気湯などの漢方薬、ビタミン剤などが処方されていますが,天野医師は最近の治療の項で紹介する和温療法を施行しており、満足すべき結果を得ていると言われております。

睡眠障害の症状管理

まず良い睡眠習慣を作ることが重要です。

正しい睡眠習慣を守るだけで十分でない場合には、メラトニン、抗ヒスタミン剤等の軽い睡眠補助剤が有効な事があります。

それでも効果が十分ではない患者さんに、次の段階で、ゾルピデム、ゾビクロン、エスゾビクロン、プロチゾラム、ロルメタゼパムが追加して様子をみます。

また、中途覚醒(途中で目が醒めてしまう)、早期覚醒(十分に長時間眠り続けられない)にはニトラゼパム、フルニトラゼパム、エスタゾラム、クアゼパム等が使われます。

ベンゾジアゼピン無効例には、睡眠作用の強い抗うつ薬(ミアンセリン、ミルタザピン、トラゾドン)、少量の抗精神病薬(クエチアピン、レボメプロマジン)等も使用されます。

睡眠薬はアルコールとの併用により作用が増強するため、併用は避けてください。

ベンゾジアゼピン系薬(BZD)は、安全性は高いのですが、常用量の服用でも依存を生じる可能性が高いため、1カ月以上の服薬では減量・中止のタイミングを検討する事が求められます。

BZDでは、奇形を有する等、障害児を出産する例が、対照群より有意に多いとの疫学的調査報告があります。

さらに、妊娠後期の服用では、新生児に哺乳困難、活動低下、筋緊張低下、過緊張、嗜眠や離脱症状等が現れる事もありますので、服用をする際には注意してください。

また、薬による改善を目指す上でも、良い睡眠習慣を作るためには下記のような注意が必要です。

a.起床時刻を一定にする。

b.適度な運動を行う。

c.室内環境(温度、湿度、明るさ、広さ)に配慮する。

d.夕方以降のカフェインを控える。

e.アルコールの摂取は少量に抑える

f.ニコチンを控える。

g.昼寝は30分以内とする。

h.夜にぬるめの入浴を長めにする。(大体体を洗う前に40℃のお湯に10分、体を洗ったり、髪を洗ったりした後に5分くらいお湯につかるのがお勧めです。)

i.牛乳を摂取する。

j.朝陽にあたる(これはセロトニンを出すため脳をリセットするためのものですので、数分で良い。)

k.睡眠薬の服薬は就寝30分以上前にする。

痛みの管理

薬物療法と非薬物療法で対処します。

薬物療法としては、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン等の一般用医薬品から始め、ノイロトロピン、プレガバリン、デュロキセチン、ミルナシプラン等が処方されます。

時に、急性の痛みや重度の痛みに麻酔性医薬品が用いられることがありますが、これらの薬は依存性があり、傾眠、難聴、不妊等の副作用もありますので、天野医師は和温療法を併用することで、麻酔性医薬品の使用は避けるようにしているとのことです。

非薬物療法としては和温療法を筆頭に、安静、冷却、温熱,ミネラル風呂、マッサージ、鍼灸、気功、理学療法などがあります。

思考障害に対しての治療

最近の様々な研究により脳・神経機能異常が明らかになっています。脳血流シンチSPECT(single-photon emission tomography)では、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、基底核等における局所脳血流の低下が認められ、PET(positron emission tomography)でも同様の部分に所見が確認されています。

慢性疲労症候群ではしばしば抑うつ状態を合併し、うつ病との鑑別が問題となりますが、うつ病患者では下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンの増加のため、血液中のコルチゾールが上昇していることが多いのに対し、慢性疲労症候群では下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンの不足により血清コルチゾールは減少していることが多いという違いがあります。

セロトニン代謝の異常も指摘されており、SSRI、SNRI(セロトニン等が元の細胞に吸収される(神経細胞間で減少する)のを抑える薬)が有効な患者さんもいます。

 

CFS/MEの患者さんでは、経過が長引くにつれ、

A.光、音、化学的な臭いや煙等に対する過敏症や、

B.天候(気温、湿度、気圧)に適応できない状態

C.薬物アレルギー等

が出現しますが、病気の回復とともに改善傾向を示します。

慢性疲労症候群の患者さんの治療において必要な配慮

今まで述べた、治療方針に加え、日本の患者さんに多いとされている重症患者に対しては、下記のような配慮も必要です。



a.在宅での保健支援や介護支援(調理、洗濯、家事、買い物)

 

b.医師あるいは専門医による在宅診療

 

c.自宅での環境を改善するための補助器具、歩行器具、人間工学ベッドの用意

 

d.在宅リハビリ

 

e.楽しい活動を継続する(書く,刺繍、編み物、自然観察、音楽、CD化した本など)

 

f.社会との接触を心がける(友人の訪問、フェースブックなど)

 

g.重症者は過敏性があるので、医薬品やサプリメントは絶対に必要なものを最小限に投与するだけとする。

新たな試みの治療方法

最近の臨床研究中の治療の中で、有望と考えられる治療法として、和温療法、経頭蓋磁気刺激療法、上咽頭擦過治療などが試みられています。

1)和温療法

天野医師が静風荘病院で行っている治療法です。 和温療法は、鹿児島大学医学部第一内科鄭教授によって開発された重症心不全にたいする非薬物療法で、心身を和ませる温度で全身を15分間均等加温室で保温し、深部体温を約1~1.2度上昇させた後、さらに30分間の安静保温で和温効果を持続させ、終了時に発汗(汗をかいた分)に見合う水分を補給してあげる治療法です。

遠赤外線は熱透過性に優れており、表皮を通過し皮下組織において温熱効果を発揮することから、他のミストサウナなどと異なり、体表面を過度に温めることなく、患者が熱による痛覚刺激を受けることもなく、効率よく深部体温を上昇させることが出来ます。

治療の確立されていなかった筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群および線維筋痛症患者さんの痛みを取る治療として和温療法が有効ではないかと考えた天野医師がME/CFSの患者さんに応用したことで始まりました。

現在は、ME/CFS患者さんにおける基本的な治療として、通院、または、症状の酷い患者さんの場合は入院してこの治療法を行っています。

これまでも多くの患者さんの改善実績が見られ、全国から慢性疲労症候群で悩む患者さんが受診されています。

2)経頭蓋磁気刺激療法(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)

近年、ME/CFS患者では,疲労を感ずる脳の部分の機能低下が認められるとの報告があり、理論的にはその部位に高頻度rTMS療法を適用し、神経活動性を高めれば疲労症状が回復するのではないか?という仮説が立てられました。

その仮説より、現在,うつ病,脳卒中など精神疾患や、神経疾患領域で臨床応用されている反復性経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)が、ME/CFSの症例に対して行われておりました。
施行後、その効果が段々減少していくものの、施行直後には著明な効果があり、大いに期待されていた治療法でした。

日本では、富山県立リハビリテーション病院の井上医師並びに国際医療福祉大学市川病院の角田医師が臨床研究の一環として経頭蓋磁気刺激療法を積極的に行ってくださっていましたが、井上医師は2021年4月に急逝され、また角田医師も2020年12月に新規の患者さんの受け入れを中止されたため、自由診療で慢性疲労症候群患者を対象にrTMS治療を行っている医療機関を受診するという選択肢のみとなっておりますが、やってみる価値はあると考えられます。

自費診療は、保険外診療ですので、個々の医療機関で価格が決められます。約4000円~19800円/回までとTMS治療費には医療機関により大きな差があります。 経頭蓋磁気刺激療法は、その治療効果が実感されやすい治療法ですので、神経内科の先生方には、是非、CFS/ME患者さん方のために、治療の機会を下さるよう心から願っています。

3)上咽頭擦過治療

慢性上咽頭炎に対する塩化亜鉛治療で、1960年代に、東京医科歯科大学耳鼻咽喉科教授の堀口申作先生が開発した治療法です。

当時は喘息、膠原病、関節リュウマチ、頭痛、自律神経障害、アレルギー疾患などの全身疾患との関連が精力的に研究されました。
しかし、残念ながら最終的に臨床医学に定着することがなく、「鼻咽喉炎」の概念そのものが日常臨床の場から忘れ去られていました。

しかし、近年、扁桃摘出とステロイドパルス療法を組み合わせて、IgA腎症の7割を寛解に導いた堀田修医師らの報告以来、耳鼻科領域以外の慢性疾患へ改めて応用され、良い結果が出ている治療法です。

堀田医師によれば、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)では、8割の方に有効とのことです。

4)マインドフルネスやヨガ

また、前述3つの治療法のように、直接的に体調に変化を与えて、症状を改善するわけではありませんが、近年の研究の中で、マインドフルネスやヨガをやることで、症状の緩和や改善が確実に認められる患者さんもいらっしゃいます。

これは、マインドフルネスやヨガによって自律神経が整えられ、それによる脳内における血流調整が図られるからではないか?と考えられています。

慢性疲労症候群のような症状が出たときに頼れる病院は?

まだまだ、慢性疲労症候群の患者さんを本格的に診察・治療している医療機関は数えるほどしかないように思います。

基本的には、総合診療医のいる病院が最低条件になります。その中でも特に慢性疲労症候群の診断、治療経験を豊富に持つ病院をお勧めします。

ネットで探してみると、慢性疲労症候群の治療をうたうクリニックは数多く存在しますが、残念ながら玉石混交なのが実態のようです。

冒頭にご紹介したように、コロナウィルスの後遺症として診断されてしまう患者さんもいるような状態ですから、医師選び、医療機関選びが最も大切になってきます。

女性外来の生みの親、天野惠子医師は慢性疲労症候群の患者さんを沢山診ていらっしゃいますが、お聞きしましたら、「私が知っている方としては・・・」とお断りになった上で、

大阪市立大学(疲労クリニカルセンター)※初診受付はナカトミファティーグケアクリニックにて受診後

名古屋大学(総合診療科)

九州大学(心療内科)

国立精神神経医療センター(免疫部)

東京港区の青山・まだらめクリニック

富山県のミワ内科クリニック

鹿児島県の増田クリニック

東京練馬区の関町内科クリニック

などを挙げられていました。

天野恵子医師がい風荘病院には、全国から治療希望者が通ってきています。

慢性疲労症候群の予後

残念ながら、慢性疲労症候群患者さんの予後についての調査報告はありません。

慢性疲労症候群は激しい倦怠感に襲われ、生活が著しく損なわれるほどの強い疲労とともに、頭痛や微熱、筋肉痛などの症状と思考力・集中力低下などをもたらす疾患ですが、原因は不明で、明確な治療法はなく、患者の生活実態もほとんど把握できていませんが、平成26年度厚生労働省委託研究「慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査事業」で、慢性疲労症候群患者さんの日常生活の困難度を明らかにすることを目的とした調査が行われています。

 

対象は、医療機関で診断された男女計251人(平均41.8歳)、男女比は、男性が22%、女性が78%。

発症年齢は平均30歳ほどで、罹病期間は6~7年でした。

「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」の患者は全国で24~38万人に上ると推測されていますが、その調査で、ほぼ3割が「日中の半分以上寝たきり」であることが明らかになりました。

「発症に関与したと考えられる要因」としては、複数回答で「感染症」76人(30.3%)、「発熱」68人(27.1%)などが多く、「思い当たらない」も51人(20.3%)いました。

「調査時の症状」としては、「肉体的精神的疲労」の88.8%を筆頭に、「回復に24時間以上かかり悪化傾向」、「広汎な筋肉痛」「集中力低下」などが多く挙げられていました。

「症状を悪化させる事がら」は、「無理をせざるを得ない」「気圧・季節の変化」「ストレス」が過半数を超えていました。

「痛みの症状」については、「強い」「眠れないほど強い」が合わせて75%に上り、頻度は37%が「常時」と答えています。

頭痛、全身の筋肉・関節痛などの耐えられない痛みを常時感じていることが分かりました。

睡眠障害もあり、7割が睡眠導入剤を使っていた」とコメントしています。

「歩ける距離」でも顕著な数値が出ています。

重症患者は「歩けない」が15.3%、「10m以内」が27.8%。重症患者はトイレくらいにしか行けないということです。全体でも18.9%が10m以内しか歩けませんでした。

「困りごと」として挙がったのは、

①「症状が耐えがたい」

②「専門医がいない」

③「社会的孤立」

の順でした。

「行政に望むこと」では、「病気の研究」「病気の認知」「医療費助成」などが並びました。

慢性疲労症候群の症状で苦しまないための方法

医師と患者様、双方に知識があることによって誤診や診断の遅れを回避することができます。

激しい疲労感を伴う体調不良の原因がどこの医療機関でもはっきりしなかったとき、慢性疲労症候群ではないかと考えて、上記項目9にある医療機関を受診してみてください。

慢性疲労症候群の患者さんにとって、参考になりそうな書籍やホームページ

ホームページ

書籍

①専門医が教える 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群:診療の手引き 倉恒弘彦・松本美富士 日本医事新報社(2019年)

②病気と闘わない 近藤菜津紀 ジーオーティー(2020年)

③なぜ微熱はからだにいいのか―毛細血管が生き返る生活術 鄭忠和 講談社(2018年)

④お日さまセラピー セロトニン生活のすすめ 有田秀穂 青春出版社(2006年)

⑤ハーバード大学式 免疫力アップ! いのちの野菜スープ 髙橋弘 世界文化社(2019年)

⑥「ある日突然慢性疲労症候群になりました」ゆらりさん、合同出版(2019年)