漢方へのいざない
女性外来オンラインチャンネルに登録してくださっている方々に、今年1月13日(土)に東京都千代田区九段南4-8-21 ビジョンセンター市ヶ谷で開催された「漢方入門講座」のお知らせを送らせていただいたのですが、オンラインチャンネルからは、残念ながらお一人の参加もありませんでした。
当日は、司会進行は徳洲会千葉西総合病院健康管理センターの小西明美先生にしていただきました。最初に私から講座の趣旨説明をしました。私は、2002年に日本性差医学医療学会の前身である性差医療・医学研究会(2008年に日本性差医学・医療学会へと発展)とNPO性差医療情報ネットワークを起ち上げました。性差医学・医療研究会及び日本性差医学・医療学会では、医療者を中心として性差に関する学際的な学会を目指しています。NPO性差医療情報ネットワークは、全国で雨後のタケノコのように誕生する「女性外来」の担当医を対象とした産科、内科、精神科などのセミナーを開催し、女性外来担当医の方々を応援してきました。ことに、漢方医学については、私自身が千葉県立東金病院女性外来を担当してすぐに、西洋医学のみで女性外来を受診される患者さんに対応することは難しいと気づきましたので、2004年からは、女性外来担当医ならびに漢方を学びたい女性医師を対象に、株式会社ツムラの支援を受け「女性医師のための漢方セミナー」を全国展開してきました。
私も今年81歳、いつまで現役で頑張れるか分かりません。次の世代へのバトンを繋げなくてはなりません。学会の方は、初代理事長の鄭 忠和 鹿児島大学大学院・循環器呼吸器代謝内科教授から下川宏明 東北大学大学院循環器内科教授、秋下雅弘東京大学大学院医学系研究科加齢医学教授と引き継がれ、2024年1月の総会で、片井みゆき政策研究大学院大学保健管理センター教授が第4代の理事長に指名されました。学術集会は、第17回を迎え、井川房夫島根県立中央病院 医療局次長(脳神経外科)の下、広島で1月27日、28日の2日間にわたり開催され、成功裡に終わっています。
女性外来は、2001年に鹿児島大学、千葉県立東金病院で開設されてから、メディアも大きく取り上げてくれたこともあり、各県での公立病院での開設が続き、一時は全国で雨後のタケノコのように増え続け、2005年1月の時点では、43の大学医学部、119の公立病院、23の社保・労災・健保病院 、117の私立病院、合わせて356施設に上っていました。しかし、全ての施設が「性差医学・医療の実践の場としての女性外来」を正しく認識しての開設とは言えず、担当医の転職、退職、必要性への疑問などにより、徐々に減少し、2018年には201施設まで落ち込みました。
そのような中、私が蒔いた種「女性医師のための漢方セミナー」に参加してくださった女性医師の方々は、 漢方医学・性差医学という新しい治療ツールを手にされて、各地でしっかりと根を下ろし頑張り続け、名医の名をほしいままに活躍されています。その実績が、政府における男女共同参画の動きが本格的になってきた今、女性外来への回帰現象を起こし、その数が再び徐々に上昇しています。
私が、「女性医師のための漢方セミナー」を立ち上げた頃は「なんで天野先生が漢方?」「エビデンスがないよね」などと、散々な言い方をされましたが、今では、医師の8割が何らかの漢方処方をしているというのが現状です。科学の発達とともに、漢方における効能のメカニズムを詳細に解明することが可能となってきたことによります。漢方にはエビデンスがないと言い続けてきた先生方も、使ってみればよく効く漢方に脱帽せざるを得なかったというところでしょうか
古来、「女の病は男に比して十倍治し難し」といわれ、女性の症状が複雑で治し難いが故に、漢方では観察研究が進み処方も発達しました。性差はもとより体質や性格、生活環境も考慮する漢方の考え方は、まさに「傾聴と共感」を基本にその人全体をみる女性医療のコンセプトと一致します。漢方に興味を持つと、自分自身の心と体に自然に目が向きます。それこそ、すこやかな人生を送るための基本姿勢だと私は思っています。