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今年もお世話になりました。

今年から始めた女性外来オンラインJGOに関心を持っていただきましてありがとうございます。診察室で、患者さんのご主人から「先生の話をネットで流していいですか?多くの人に伝えたい」と提案があり、私もそのようなことを考えていたこともあり、2つ返事で乗りました。少しずつコンテンツを増やしています。今月は、私の更年期体験についてもお話しました。もうすぐ、ユーチューブに掲載されると思います。くる年も、性差を考慮した医療の実践の場としての女性外来から沢山のメッセージを送りたいと思っています。

 

さて、今年最後の話は、夢のような話です。

日本医療研究開発機構が、「順天堂大学医学部循環器内科南野徹教授のグループが、加齢に伴い蓄積され、動脈硬化などの原因となる「老化細胞*1を除去するワクチンの開発に成功したと発表したのです。まだ、マウスの実験での話なのですが、長い期間にわたり研究に研究を重ね、非常に質の高い、人間への応用も考えうる成果です。

 

ワクチンで老化細胞を除去!!

今回、研究グループは、マウスの老化細胞に特異的に発現する老化抗原*2を同定し、その抗原を標的とした老化細胞除去ワクチンを作成して老化細胞を除去したところ、肥満に伴う糖代謝異常や動脈硬化、加齢に伴うフレイル*3が改善するばかりでなく、早老症マウスの寿命を延長しうることを確認したというのです。この成果は、アルツハイマー病を含めた様々な加齢関連疾患の治療への応用の可能性を示唆するもので、論文はNature Aging誌のオンライン版に2021年12月10日付で公開されました。

 

本研究成果のポイント

  • 老化血管内皮細胞の遺伝子情報から特異的に発現する老化抗原GPNMBを同定した
  • 老化抗原を標的としたマウス老化細胞除去ワクチンの開発に成功した
  • 老化細胞除去ワクチンによって様々な加齢関連疾患における病的老化形質が改善された

 

本研究の背景

加齢や肥満などの代謝ストレスによって、生活習慣病やアルツハイマー病などの加齢関連疾患が発症・進展することが知られていますが、その仕組みはよくわかっていません。研究グループではこれまで20年以上にわたって加齢関連疾患の発症メカニズムについて研究を進め、加齢やストレスによって組織に老化細胞が蓄積し、それによって惹起される慢性炎症が、加齢関連疾患の発症・進展に関わっていることを明らかにしてきました。さらに最近、蓄積した老化細胞を除去することで、加齢関連疾患における病的な老化形質を改善しうることが示されています。しかしながら、これまで報告されている老化細胞除去薬は、抗がん剤として使用されているものが多く、副作用の懸念がありました。そこで研究グループは、より老化細胞に選択的に作用し、副作用の少ない治療法の開発を目指して研究を行いました。

 

内容

本研究ではまず、老化細胞に特異的に発現している老化抗原を同定するために、老化したヒト血管内皮細胞の遺伝子情報を網羅的に解析しました。得られた候補のうち、すでにヒトの老化と関連があることが示唆されているGPNMBという老化抗原について解析を進めました。その結果、GPNMBはヒト老化血管内皮細胞において著明に増加するだけでなく、動脈硬化モデルマウスや高齢マウスの血管や内臓脂肪組織においてもその発現の増加が認められました。また、動脈硬化疾患のある高齢患者の血管においてもその発現が増加していることがわかりました。

次に、GPNMBを標的とした抗老化治療の可能性を検証するため、GPNMB陽性の老化細胞を薬剤によって選択的に除去できる遺伝子改変モデルマウスを作製しました。そのマウスに肥満食を与えたうえで、薬剤によりGPNMB陽性老化細胞の選択的除去を行ったところ、肥満に伴う糖代謝異常や動脈硬化の改善が認められることがわかりました。

そこで、GPNMBを標的とした老化細胞除去ワクチンの開発に取り組みました。いくつかデザインしたワクチンの中で、接種にてGPNMBに対する抗体価が有意に増加するものを選別しました。このワクチンを肥満食を与えた状態のマウスに接種したところ、肥満に伴って内臓脂肪に蓄積した老化細胞が除去され、脂肪組織における慢性炎症が改善することで、糖代謝異常の改善が得られることがわかりました。また、動脈硬化モデルマウスでは動脈硬化巣において多くの老化細胞の蓄積が見られましたが、老化細胞除去ワクチンによって老化細胞は除去され、慢性炎症の改善とともに動脈硬化巣を縮小させうることがわかりました。さらに、高齢マウスにおけるワクチン接種後のフレイルの状態を観察したところ、ワクチン接種していないマウスと比較してフレイルの進行が抑制されていました。早老症モデルマウスに対するワクチン接種では、寿命の延長効果が確認されました。最後にこれまでの老化細胞除去薬との比較実験では、老化細胞除去ワクチンの副作用が少ないことや効果の持続時間が長いことなども確認できました。

 

今後の展開

今回、研究グループは、加齢関連疾患に対する新しい治療法の確立に向けた老化細胞除去ワクチン開発に成功しました。GPNMBは老化した血管内皮細胞や単球に豊富に発現している老化抗原ですが、他種の老化細胞では別の老化抗原が存在することが予想されます。今後は、各々の患者や疾患によって蓄積している老化細胞の異なる老化抗原を標的とすることで、個別化抗老化医療の実現が可能になると考えられます。本研究では、糖尿病や動脈硬化、フレイルに対する改善効果や早老症に対する寿命延長効果を確認できたことで、今後はアルツハイマー病を含めた様々な加齢関連疾患での検証や、ヒトへの臨床応用が期待されます。

 

用語解説

*1 老化細胞

様々なストレスによって染色体に傷が入ることで不可逆的に細胞分裂を停止した状態になった細胞。細胞老化は、がん発症抑制機構の一つ。

*2 老化抗原

老化細胞に特異的に発現が見られる膜表面に存在する分子。

*3 フレイル

加齢とともに身体機能が低下している状態。

 

さらに興味のある方は、論文情報も含め下記のURLをクリックしてください。

老化細胞除去ワクチンの開発に成功―アルツハイマー病などの加齢関連疾患への治療応用の可能性― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)

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