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今まで、私たちが経験してきたワクチンは、生ワクチンまたは不活化ワクチン・組み換え蛋白ワクチンでした。しかし、今回使用されているワクチンはメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン。従来なら創薬から治験を経て、一般に使われるまでに数年~10年を要していたワクチンですが、今回は、ファイザー社がドイツのベンチャー「ビオンテック」と新型コロナワクチンの共同開発で合意したのは2020年3月。ビオンテックの「mRNAワクチン」の技術に自社の開発・製品化能力を組み合わせ、248日で緊急使用許可の申請にこぎつけました。
1. 生ワクチンとは
病原性を弱めた病原体からできています。接種すると、その病気に自然にかかった場合とほぼ同じ免疫力がつくことが期待できます。一方で、多くの方は軽度で済むことが多いのですが、副反応として、その病気にかかったような症状が出ることがあります。代表的なワクチンとしては、MRワクチン(M:麻しん、R:風しん)、水痘(みずほうそう)ワクチン、BCGワクチン(結核)、おたふくかぜワクチンなどがあります。
2.不活化ワクチン、組換えタンパクワクチンとは
感染力をなくした病原体や病原体を構成するたんぱく質からできています。1回接種しただけでは必要な免疫を獲得・維持できないため、一般に複数回の接種が必要です。代表的なワクチンとしては、DPT-IPV:四種混合ワクチン(D:ジフテリア・P:百日せき・T:破傷風・IPV:不活化ポリオ)、DT:二種混合ワクチン(D:ジフテリア・T:破傷風)、日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチンなどがあります。
3.メッセンジャーRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチンとは
これらのワクチンでは、ウイルスを構成するタンパク質の遺伝情報を投与します。その遺伝情報をもとに、体内でウイルスのタンパク質を作り、そのタンパク質に対する抗体が作られることで免疫を獲得します。現在日本で、使用または使用が検討されている新型コロナワクチンは、ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社によるワクチンです。

新型コロナウイルスがヒトの細胞に侵入するには、ウイルス粒子の表面にあるタンパク質(スパイク蛋白質)がヒト細胞上のアンギオテンシン転換酵素2(ACE2)と結合することが必要です(図1)。

 

ファイザーとモデルナのワクチンはいずれもこのスパイク蛋白質の遺伝子全体をもちいています。人工的に作ったスパイク蛋白質のmRNAをワクチンとして接種すると、体内でスパイク蛋白質だけが作られ、これを異物と認識した免疫細胞が抗体を大量に作ります。そうすると、同じスパイク蛋白質を持つウイルスが侵入して来たときに、素早く反応して攻撃をすることができます。mRNAは、体内で分解されやすい性質があるため、実際には、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質のmRNAが簡単に分解されないように脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle, LNP)で包んでカプセル化しています。また、このLNPによって、ヒトの細胞内にmRNAが取り込まれやすくもなります。mRNAワクチンは筋肉内注射で投与されますが、筋肉細胞や樹状細胞という免疫担当細胞の中でmRNAをもとにタンパク質が作られ、生成されたタンパク質の一部が所属リンパ節にてT細胞やB細胞に提示され、免疫応答が起こります。

アストラゼネカのワクチンは、ウイルスベクターワクチンです。アデノウイルスなど感染力のあるウイルスに特定の遺伝子を組み込み人体に投与するものです。ベクター(運び屋)としてのウイルス自体には病原性はありませんが、人体内で複製されて増殖するものと、複製されず人体内で増殖できないものがあります。アストラゼネカのウイルスベクターワクチンはチンパンジーアデノウイルスを用いたもので、人体内で複製できません。ベクターに新型コロナウイルスのスパイク蛋白質の遺伝子を組み込んであり、スパイク蛋白質に対する免疫が誘導されます。

mRNAとは:遺伝情報の伝達や、たんぱく質の合成に関わる生命の根幹物質である核酸はDNAとRNAの2つに大別されます。DNAは遺伝情報を格納していて、細胞の核内に存在します。2本のDNAの鎖は、塩基同士で結合していますが、一部分が酵素により切り離され、その切り離した部分にその塩基に対応するRNAが結合してmRNAの鎖が作られます。そしてこの作られたmRNAが細胞核の外にあるリボゾームに運ばれ、リボゾーム上でたんぱく質へと翻訳されます。

4.ワクチンの遺伝情報を人体に投与するということで、将来の身体への異変や将来持つ予定の子供への影響はありませんか。

mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンでは、ウイルスのタンパク質をつくるもとになる情報の一部を注射します。人の身体の中で、この情報をもとに、ウイルスのタンパク質の一部がつくられ、それに対する抗体などができることで、ウイルスに対する免疫ができます。mRNAは、非常に不安定で、数分から数日といった時間の経過とともに分解されていきます。身体の中では、人の遺伝情報(DNA)からmRNAがつくられる仕組みがありますが、情報の流れは一方通行で、逆にmRNAからはDNAはつくられません。こうしたことから、mRNAを注射することで、その情報が長期に残ったり、精子や卵子の遺伝情報に取り込まれることはないと考えられています。
5.アナフィラキシーではどのような症状が出ますか。治療法はありますか。
いずれのワクチンも筋肉注射で21日から28日の間隔で2回接種します。新型コロナワクチン接種後の副反応としては、不活化インフルエンザワクチン接種時と比べ、局所反応としての接種部位の痛み、全身反応としての発熱、倦怠感などの頻度が高くなっています。アナフィラキシーショックは、薬や食物が身体に入ってから、短時間で起きることのあるアレルギー反応です。 じんま疹などの皮膚症状、腹痛や嘔吐などの消化器症状、息苦しさなどの呼吸器症状が急におこります。血圧の低下を伴い意識レベルの低下(呼びかけに反応しない)や脱力を来すような場合をアナフィラキシーショックと呼びます。特定のワクチンだけに起きるものではなく、様々な医薬品やワクチンの投与後に報告されています。例えば、インフルエンザワクチン接種後の副反応疑い報告では、因果関係があるかどうか分からないものも含め、1シーズンで、約20件のアナフィラキシーが報告されています。治療としては、予防接種後に、息苦しさなどの呼吸器症状がみられれば、接種会場や医療機関で、まず、アドレナリン(エピネフリン)という薬の注射を行います。そのあと、症状を軽くするために、気管支拡張薬等の吸入や抗ヒスタミン薬、ステロイド薬の点滴や内服なども行います
接種後にもしアナフィラキシーが起こっても、すぐに対応が可能なよう、予防接種の接種会場や医療機関では、医薬品などの準備をしています。

2月17日に、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が国内で始まりました。1例目として国立病院機構東京医療センター(東京都目黒区)の新木一弘病院長に米ファイザー社のワクチンが接種されました。政府は同機構の施設など全国100カ所の病院で同意を得た医療従事者4万人に先行接種し、そのうちの2万人からは日々の健康状態に関するデータを集め、副反応などの安全性を確かめ、公表する予定です。ファイザー社のワクチンは16歳以上が対象で、3週間の間隔で2回接種します。約4万4千人を対象に実施した海外の治験では、ワクチンを接種したグループは、未接種に比べて発症率が95%減ったと報告されています。

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