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3月26日に毎日新聞に「40代以下聴力 20歳分低下」という記事が掲載されていました。一般的に聴力は加齢に伴って低下します(図1)。私も3年前に初めて健診で聴力検査を行ったところ、右耳の4000ヘルツに対する聴力低下を指摘されました。医学部の同級生で耳鼻科の元教授に「治す方法はありますか?」と聞いたところ、「治す方法はないので、慣れていくしかない」との返事でした。今回の慶応大学などの研究は、世界保健機関(WHO)が、「安全でない音楽鑑賞の習慣により、難聴のリスクにさらされている」と、携帯音楽プレーヤーの普及による聴力への悪影響に警鐘を鳴らしていることに対し、世界で初めて若年層の聴力低下の実態を明らかにした貴重な報告です。

研究チームは、国立病院機構東京医療センター(東京都目黒区)で2000~2020年に得られた約3万人分の聴力データのうち、耳の病気で聴力が低下していた人を除く10~99歳の1万681人分を解析しました。聴力は、音の高さ(125~8000ヘルツ)と、音の大きさ(0~110デシベル)を組み合わせて評価しています。 研究チームが分析に基づき、10~90代の年代別の平均聴力を算出し、各年代で聴力がどう変化したかを調べています。その結果、40代以下の場合、男女ともに高い音(4000ヘルツ)に対する聴力が低下傾向にあり、2000~2004年に比べ、2016~2020年は音が0.8~2.4デシベルほど大きくないと聞こえにくくなっており、この聞こえにくさを「聴力の老化」に換算すると、最も老化が進んだのは20代女性で、20歳分老化していたそうです。つまり、2016~2020年の20代女性は2000~2004年の40代女性と同じくらいの聴力ということです。 2000~2004年と2016~2020年を比較した老化の程度は、10代男性では19歳分、10代女性では10歳分、20代男性では15歳分、20代女性では20歳分、30代男性では6歳分、30代女性では11歳分、40代男性では7歳分、40代女性では8歳分低下していました。50代以降は00~04年と16~20年の間に変化はなかったとのことです。

4000ヘルツへの耳の感受性は、騒音でダメージを受けることが知られています。研究チームは「音楽を聴く環境が影響している可能性が高い」と指摘しています。聴力は加齢に伴って低下しますが、ある人の聴力が同年代の中で平均的なのか、加齢の影響以上に聴力低下が進んでいるのかを判断する客観的なデータがこれまではありませんでした。慶応大などの研究チームが今回示した年代別の平均聴力は、補聴器の使用や生活習慣の改善など、聞こえ方に対するケアの適切なタイミングを決めるのに役立つデータと言えます。

さらに、私がこの研究結果に興味を持ったのは、アルツハイマー病学会国際会議(2017年)に発表された認知症の発症要因のトップが難聴だったことを思い出したからです。国際会議の発表では、「9つの生活スタイルが認知症発症要因の35%を占める」とされました(表1)。2020年には、ロンドン大学などが、英医学誌ランセットに認知症になりやすいリスクに関する発表をしており、45~65歳で難聴があると認知症になるリスクが1・9倍と報告しています。一方、米国の50歳以上の2040人を対象にした調査では、補聴器を使用すると認知機能の維持が確認されたという報告もあります。生活の中で不便を感じているかという主観的な判断に加え、平均的な聴力より低下しているかどうかを心にとめ、補聴器を使うタイミングを逃さないことが大事です。私の同期の眼科医は「50歳になったら毎年目の健診も受けて!」と言ってましたが、耳についても同じことが言えそうです。。

図1

表1

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