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2020/09/20と2020/10/18付け発行のメルマガ再掲記事です。

米国CDC(米国疾病予防センター)から、コロナウイルス感染におけるハイリスクの患者についてのガイダンスが出ています。

重症化する患者の背景として、下記の因子が挙げられています。

1.65歳以上の高齢者

2.ナーシングホームや長期療養施設の入所者

3.持病を有する者 

 心血管疾患脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、心不全など)

 糖尿病 慢性呼吸器疾患(喘息、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患など)・喫煙

   高血圧、がん治療中、骨髄・臓器移植者、免疫不全症、HIV/AIDS、人工透析中、

   肝臓疾患、長期コルチコステロイド・免疫抑制薬服用、BMI40以上の肥満者

 

この中には性差についての記載はありませんが、赤字で示したように「生活習慣病」と称される病態がたくさん入っています。

つい最近、The New England Journal of Medicineに素晴らしい論文が掲載されました(参考論文1)。タイトルは「Cardiovascular Disease, Drug Therapy, and Mortality in Covid-19.」です。

この論文の目的は、心血管疾患で治療を受けている患者がコロナウイルス感染症にかかった場合、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII(AII)受容体拮抗薬(ARB)を服用していると、何らかの弊害が認められるのではないかとの論文があるが(参考論文2)、実際はどうなのかを検証するものでした。

ハーバード大学医学部関連の非営利教育病院Brigham and Women’s Hospitalからの報告です。

対象は2019年12月20日から2020年3月15日までにアジア、ヨーロッパ、北米の169病院にコロナウイルス感染症で入院した患者で、2020年3月28日の時点で生存し退院した患者8395名と死亡した患者515名の比較をしています。この論文から見えてきたことは、院内死亡リスクを上げる因子としては、(1)65歳以上の患者では、93%増加。(2)冠動脈疾患患者では、170%増加。(3)うっ血性心不全患者では、148%増加。(4)不整脈を有する患者では95%増加。(5)慢性閉塞性肺疾患患者では196%増加。(6)喫煙者では79%増加。一方、リスクを減少させる因子は、(1)女性では院内死亡リスクが21%減少。(2)ACE阻害薬使用では、67%減少という結論だったとのことです。やはり女性であることは、コロナウイ

ルス感染症の予後を考える際、有利のようです。

 

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続いて、生活習慣病における性差について考えてみます。

生活習慣病は、「健康的と言えない生活習慣が引き起こす病気」と言えます。逆に言えば、より良い生活習慣を取り戻すことによって発病を防ぐことが可能です。生活習慣病に該当する主な病気としては、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、慢性腎臓病(多くは糖尿病が原因)、高尿酸血症/痛風、肥満症/メタボリックシンドローム、脂肪肝/非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性肝炎(NASH)、慢性閉塞性肺疾患(COPD、肺気腫や慢性気管支炎)、肺がん、大腸がん、歯周病などが挙げられます。

喫煙はこれらの生活習慣病の原因ともなり、且つ、悪化させる因子でもあります。

 

こちらに2019年国民生活基礎調査統計表が掲載されています。

第10表は「性・年齢階級・傷病(複数回答)別にみた世帯人員・通院者数・通院者率(人口千対)」です。これを見ていただくと、男女での通院者率(人口千人に対し、何人が通院しているか)は次のようになっています。

糖尿病 男62.8、女37.9(男性リスク1.6倍)

肥満症 男5.0、女4.2

脂質異常症 男43.9、女62.5(男性リスク0.7倍)

高血圧症 男129.7、女122.7(男性リスク1.1倍)

脳卒中 男14.4、女7.8(男性リスク1.8倍)

狭心症・心筋梗塞 男23.9、女12.5(男性リスク1.9倍)

慢性閉塞性肺疾患 男2.7、女0.6(男性リスク4.5倍)

痛風 男20.0、女0.9(男性リスク22.2倍)

悪性新生物(がん) 男8.8、女10.4(男性リスク0.8倍)

 

脂質異常症と悪性新生物(がん)では、男性に比べ女性のほうが高い数値ですが、脂質異常症は、女性では閉経とともにエストロゲンが低下し、血中から肝臓へ悪玉コレステロール(LDL-コレステロール)を取り込む受容体が減少するため、悪玉コレステロールの血液中濃度が増加します。がんは女性が平均寿命で男性より6歳長く、今年の調査でも100歳以上の高齢者8万450人のうち女性が88.2%と報告されていますので、通院率が男性に比べ高いのはそれが原因と思われます。そのほかの項目では、明らかに男性の通院率が女性に比べ高く、且つ、比率も大きいのが特徴です。

病気の発症には、大きく分けて1.遺伝要因(遺伝子によるもの)、2.外部環境要因(病原体、有害物質、ストレスなど)、3.生活習慣要因( 食生活、運動、休養、喫煙、飲酒、精神活動など)の3つの因子が大きく関与します。コロナウイルス感染症では、勿論一番の要因は外部環境要因であるコロナウイルスによる感染ですが、感染に対する被感染者の体力、免疫力に大きくかかわってくるのが、生活習慣です。不健康な生活習慣(特に喫煙)が引き起こす生活習慣病は、女性に比べ男性で早期から発現します。その一番の理由は、閉経前の女性では、女性ホルモンのエストロゲンが動脈硬化の抑制をはじめとして、血圧・脂質・血糖のコントロールにおいて女性に多くの好条件をもたらしてくれていることによります。動脈硬化をはじめとする病態とエストロゲンの関係については、いずれお話いたします。

 

現在、医学の分野でやっと遺伝子・分子・性ホルモンレベルでの性差が研究テーマとして取り上げられるようになってきました。

 

2020年8月27日の共同通信からの配信で、「男性は重症化しやすい?新型コロナ、免疫性差」という報告がありました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/0cc980ba1a0ad6ce2bf43ce8c2212ea25c988dd6

論文が英科学誌ネイチャーに発表されています。

https://www.nature.com/articles/s41586-020-2700-3?referringSource=articleShare

米国エール大学の岩崎明子教授(免疫学)らのチームが、新型コロナ感染患者98人について、比較対照群を新型コロナに感染していない医療従事者として、免疫反応の違いを分析した結果です。

 

1)男性ではIL-8,IL-18などの細胞から分泌され、炎症を引き起こすサイトカインというたんぱく質の量が多い。

2)一方、女性ではウイルスに対抗する抗体の生産にかかわったり、感染した細胞を攻撃したりする免疫細胞「T細胞」を多く持っている。

3)男性ではT細胞が強く反応する人ほど重症化しにくく、瘦せていて若い人ほどT細胞が反応しやすかった。女性ではこのような特徴は認められなかった。

 

この報告から、男性は、感染初期にサイトカインの濃度が高くなりやすく、深刻な状態に陥るリスクが高まると考えられます。男女別、年齢別に病気の発症、進展に関与する因子の性差、ワクチンの反応の違いについても解明を進め、個々の患者の特性に合わせた医療の在り方が求められる時代になっていると考えます。

 

参考論文

1.Mehra MR, et al. N Engl J Med. 2020 May 1;NEJMoa2007621.

2.Fang L, et al. Lancet Respir Med. 2020 Mar 11. pii: S2213-2600(20)30116-8

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