答え:ないのではないかと思います。
12月17日現在、東京都は、「感染者報告数が822人と大幅に増え、医療提供体制に関する警戒度を最も深刻な逼迫(ひっぱく)しているに上げた」と報告しています。
しかし、皆さん覚えていますか?9月ごろにテレビで大きく取り上げられていたのは、インフルエンザとコロナの同時流行に備え、インフルエンザワクチンの接種をしましょうというキャンペーンでした。一時は、「インフルエンザの予防接種をしたいのに、どこの病院に問い合わせてもワクチンがないと言われます」という声を聞きました。今年は約6600万人分のワクチンが製造されました。ワクチンは、通常製造に1年かけるので、これから新たに製造するということにはならないのですが、12月に入り数百万人分のワクチンが市場に投入されましたが、それでもうなくなるようです。
さて、この12月インフルエンザは増えたのでしょうか?昨年2019年11月第4週の患者数は約3万人でした。それが、2020年11月の第4週の患者数は、日本全国でたったの46人。もはやインフルエンザは消滅したと言っていいほどの数値です。
実は、2020年4月にウェザーニュースが「インフルエンザ患者数 昨年より450万人減 過去5年で最も少ない記録に」という記事を掲載していました。過去5年の推計値をみると、2017年から2018年のシーズンは1400万人を超えていたのが、2019年から2020年のシーズンは、例年より早い4月10日まででインフルエンザの定期的発表が終了し、この時点で728.5万人にとどまったという内容でした。図1は、2019年(青線)と2020年(赤線)のインフルエンザの定点あたりの患者報告数です。2020年は早い時期から流行が始まっていたにもかかわらず、1月中旬~下旬の報告数は2019年の約3分の1にとどまっています。日本で初めてのコロナ患者が報告されたのは、1月28日。中国・武漢市から来たツアー客を乗せたバスの運転手さんでした。
図1
その後、北半球では中国、韓国、カナダなどから新型コロナウイルス感染拡大を抑制するためのソーシャル・ディスタンシング措置によって異例の低水準にあることが報告され、10月には世界保健機関(WHO)が9月までのデータに基づいて「オーストラリアとニュージーランドではインフルエンザの検査は増えているのにウイルスの検出はとても少ない」「南アフリカではインフルエンザは検出されていない」「南半球ではインフルエンザの流行は始まっていない」とアナウンスしました。
インフルエンザの流行が見られないのはなぜなのか?主に、3つの理由が考えられます。
- 手洗い、マスク、消毒といった新型コロナ対策がインフルエンザ予防にも有効であった。
- 海外との往来が制限されているため、海外へ出る人も、日本に来る人もほとんどいない。例年なら東南アジアなど国外から持ち込まれてインフルエンザの流行につながることが多いが、それがない。
- ウイルス干渉:1つのウイルスに感染するとほかのウイルスに感染しづらくなる現象。ウイルス干渉には細胞レベル、個体レベル、集団レベルの3段階で考えます。細胞レベルでの干渉は、あるウイルスが1個の細胞に感染するとほかのウイルスに感染しにくくなるという現象が見られます。具体的な反応の1つが細胞にウイルスが感染すると、防御反応としてインターフェロンを産生し、ほかの細胞が抗ウイルス状態になるように誘導するのです。そのため、細胞がほかのウイルスに感染しにくくなります。細胞レベルでウイルス干渉が起きると、当然、個体としてもほかのウイルスに感染しづらくなります。さらにヒトーヒト感染により、あるウイルス感染症が流行すると、集団全体として自然免疫が賦活され、ウイルスに対する防御反応が高まるため、ほかの感染症が流行する可能性は低くなります。これが集団レベルでのウイルス干渉です。
皆様には、インフルが流行しなくても、コロナとインフルは初期症状で見分けがつきにくいため、発熱来がパンクする危険性があります。ワクチンはぜひやられることをお勧めします。でも、必要以上に怖がることはありません。
注:インフルエンザの定点当たりの報告数とは:全国にはインフルエンザ患者数を報告する医療機関が5,000カ所あります。この医療機関を「定点」と言います。定点当たりの報告数とは、このうち「1つの医療機関が1週間で何名のインフルエンザの患者を診療したか」を表す数字です。定点当たりの報告数が1以上ならその地域は流行期に入ったとなり、10以上なら注意報、30以上なら警報となります。