fbpx

ブログ

更年期医療

最近、NHKで更年期障害に関する報道・番組が多いなと感じています。また、昨年から、私自身、メディアからの性差医療や女性外来について寄稿依頼・インタビューなどを受けることも多くなっています。

 

そこで色々調べてみました。

先頭を切って走っているのは、NHKの取材班でした。取材班は視聴者から寄せられた声をもとに「生理の貧困」から「更年期」へと取材を広げていました。そして「取材から見えてきたのは、女性と男性の“違い”を十分に考慮せずに作られた制度や仕組みが定着している社会の姿でした。」と語っています。NHKが企画するアンケート調査については、答える側も真面目に答える傾向が高いと私も思っています。

その中で、今回は2022年3月に更年期の治療にあたっている医師を対象として行ったアンケート調査の結果について考えさせられたので、紹介したいと思います。

医者の4割近くが“自信ない”!? 更年期医療の課題とは (nhk.or.jp)

 

取材班は、医師専用コミュニティサイト「MedPeer(メドピア)」に登録している全国の医師を対象に、オンラインでアンケート調査を実施しました。

「更年期の疑いがある人を診察することがある」と回答した医師は709人(うち産婦人科医は184人)。この医師たちに患者にどう対応するか聞いたところ(複数回答可)、「自分で診療する」という割合が最も高く68%。「婦人科の受診を勧める」(42%)、「症状に応じて専門医を紹介する」(32%)、「他科の受診を勧める」(9%)、「他院を紹介」(2%)という結果でした。

 

更年期の疑いがある人を「自分で診療する」という医師は479人(うち産婦人科医は178人)に、診療の内容について聞いた結果は下記のとおりです。

  1. 更年期症状の疑いがある人の初診の際、どれくらい問診時間をかけていますか?→0~5分が9%、6~11分が42%、11~20分が36%、21~40分が11%、41分以上はわずか2%で、「10分以下」の医師が過半数を占めています。
  2. 更年期症状の患者に対して、どのような治療をしていますか?(複数回答可)→「漢方療法」が最も多く85%。次いで、「ホルモン補充療法(HRT)」が53%。カウンセリング(36%)、運動(23%)、食事(19%)など薬によらない治療も行われています。
  3. 直近1年間で、ホルモン補充療法を処方していますか?→ホルモン補充療法を処方した医師は48%(産婦人科医163人、他科の医師66人)。ホルモン補充療法を処方していない医師は46%(産婦人科医14人、他科の医師205人)、不明6%。さすが、産婦人科医は積極的にHRTを行っています。
  4. 直近1年間で、ホルモン補充療法を処方していない医師にその理由を聞きました(複数回答可)→「専門外・詳しくない」(61%)。次いで「処方した経験がない」(28%)、「管理が難しい」(25%)、「ガンのリスクがある」(20%)。
  5. 更年期診療に関してどのような課題や難しさを感じていますか?(複数回答可)→「症状が多様で診断が難しい」(66%)。「ホルモン値の検査だけでは診断できないので難しい」(53%)、「精神疾患との区別が難しい」(53%)、「その他の疾患との区別が難しい」(38%)、「問診に時間がかかり診療報酬が見合わない」(21%)、「更年期症状についての知識が乏しい(16%)」「専門分野ではないので分からない(13%)」、「経営的に採算が合わない」(9%)
  6. 更年期症状の患者にたいして自信を持って診療できますか?→「自信を持って診療できる」(14%)、「ある程度自信がある」(46%)」、「あまり自信がない」(33%)、「自信がない」(5%)、不明2%。

 

さらに、今回の調査では、「更年期症状の患者を自分で診療する」とこたえた医師の中で、「積極的に診療したい」と答えた医師が40%いた一方で、「あまり診療したくない」という医師が43%に上ったそうです。「あまり診療したくない」理由を聞いたところ、特に多かったのが「訴えが多様で問診や診察、検査に時間がかかる」「診療にかける時間と診療報酬を考えると採算が合わない」「労力と報酬が見合わない」など更年期診療を取り巻く課題を指摘する声や、また「ひとりひとりに時間がかかるわりにお互いの治療達成感が得られない」「治療の手応えがつかみにくい」という悩み、さらに「外来がパンクしており、問診にじっくり時間をかけられない」という事情もあるとのことでした。

一方、救いは、「積極的に診療したい」という医師からは、「患者が増えている」「症状が劇的に改善するのを見るととてもやりがいを感じる」などの声もあったようです。

最後に、アンケートに回答した709人の医師全員に、「今後どんな医療や社会の仕組みがあれば医師として更年期の女性たちの力になれるか」を複数回答で聞いています。「更年期医療の専門家が多い婦人科と、他の科との連携」(71%)を挙げた医師が最も多く「医学部教育の充実」(26 %)や「卒後教育・研修機会の充実(36%)」といった医師教育の必要性も挙げられています。


最後に私の感想です。更年期障害の医療については、私は、私自身が重篤な更年期障害を経験するまでは、まったくの無知でした。産婦人科医の仕事だと思っていました。しかし、経験して初めて、「訴えが多様で問診や診察、検査に時間がかかる」「診療にかける時間と診療報酬を考えると採算が合わない」「労力と報酬が見合わない」と言われていた、更年期診療を取り巻く課題を理解できました。更年期は急速なエストロゲンの変化がもたらす心身の急性期症状だけではなく、更年期が加齢変化のスタート点であることを踏まえ、加齢がもたらす諸病についても知識が無くては対応できません。精神・神経、循環器、消化器、呼吸器、内分泌、腎・泌尿器、皮膚、筋肉・骨にいたるまで、エストロゲン受容体の存在する臓器すべてで変化が起こることを知らなくては、患者さんに十分な説明ができません。

あるべき診療体形は「女性総合診療外来」です。産婦人科から他科への連携がスムースにいく体制が必要です。

 

次に、患者サイドから見た場合、「女性の一生は女性ホルモンに、男性の一生は男性ホルモンに左右されている」ことを、学校教育の段階で、男女ともに基礎知識として学ぶべきです。そもそも自分の症状が更年期によるものだと気づかない人が少なくありません。まずは正しい知識をもつ機会が必要です。

 

なぜ女性の平均寿命は男性に比べ長いのか。女性は、閉経年齢と言われる50歳近くまで、「産む性」としてエストロゲンに守られています。性差が最もはっきりしているのは動脈硬化です。男性では20代からすでに動脈硬化が始まっていますが、女性では、エストロゲンの抗動脈硬化作用により、更年期以降に動脈硬化が始まります。その結果、心筋梗塞、脳梗塞など動脈硬化が原因で引き起こされる病気の発症は、女性では男性に比べ遅いのです。高血圧、肥満、高脂血症、骨粗しょう症、糖尿病など生活習慣病と言われる病気の発症も、女性では、閉経とともに急増しますが、それも全てエストロゲンの欠乏による結果です。

 

医師も患者も性ホルモンと健康に関するリテラシーを上げることが必要です。

 

 

Tags:
前の記事へ
女性外来と漢方
次の記事へ
心療内科と精神科はどう違うのか