強皮症治療薬、新たに承認 東大が医師主導治験
突然、うれしいニュースが入ってきました。東京大学主導で治験が行なわれていた全身性強皮症(女性の罹患率が男性の12倍という性差が極めて大きい自己免疫疾患です)の治療に悪性リンパ腫の患者さんに使われてきた抗悪性腫瘍薬「リツキシマブ」が有効と分かり、国の承認を受けて新たに使えるようになったとの発表です。
大学 2021年10月12日 (火)配信共同通信社
東京大は11日、皮膚や内臓が硬くなる難病の自己免疫疾患「全身性強皮症」の治療に悪性リンパ腫の患者に使われてきた既存の薬「リツキシマブ」が医師主導の臨床試験(治験)で有効と分かり、国の承認を受けて新たに使えるようになったと発表した。病気の原因となる免疫細胞を取り除く働きがあり、これまでになかった根本的な治療法として期待されている。
強皮症は膠原(こうげん)病と呼ばれる病気のうちの一つ。患者は30~50代の女性に多く、国内に2万人以上いると考えられている。進行すると肺が硬くなる間質性肺炎が起こって死亡する恐れがある。
これまで患者それぞれの症状に合わせてステロイド薬や免疫抑制剤などが使われていた。ただ従来の治療法では大幅な病状の改善は望めなかった。
東大の研究チームは、長年の研究でリツキシマブの強皮症への有効性を見いだしていた。しかし製造販売元の製薬企業には主体的に治験を行う予定がなかったため、2017年から東大病院など4施設で医師主導治験を行っていた。
治験では強皮症の皮膚が硬くなる症状と肺炎の進行が抑えられる傾向が確認された。結果をもとに国への申請を行い、先月27日に承認された。
全身性強皮症は指定難病です。皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化あるいは線維化といいます)が特徴です。難病情報センターの情報をかいつまんで記載します。詳細は下記のURLを参照してください。
(全身性強皮症(指定難病51) – 難病情報センター (nanbyou.or.jp)
1.病気の進行や内臓病変を起こす頻度は患者さんによって大きく異なり、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」にわけられます。前者は発症より5~6年以内は進行することが多く、後者の軽症型では進行はほとんどないか、あるいはゆっくりです。
2.本邦での全身性強皮症患者は2万人以上いると確認されています。男女比は1:12であり、30~50歳代の女性に多く見られます。
3.全身性強皮症の病因は複雑であり、はっきりとはわかっていません。しかし、研究の進歩によって3つの異常が重要であることが明らかとなりました。その3つの異常とは(1)免疫異常( 自己抗体 を産生(後述します))、(2) 線維化 (線維芽細胞の活性化によって生じます)、(3)血管障害(その結果、レイノー症状や指先の潰瘍などが生じます)です。それぞれの異常についてはだんだんわかってきましたが、まだこの3つの異常がお互いにどの様に影響し合って全身性強皮症という病気になるのかがわかっていません。全身性強皮症の病因をジグソー・パズルに例えると、一つ一つのピースはだんだん集まってきましたが、まだいくつかの重要なピースが欠けていて、全体のジグソー・パズルが完成していない状態といえると思います。
4.全身性強皮症はいわゆる遺伝病ではなく、遺伝はしません。しかし、全身性強皮症にかかりやすいかどうかを決定する遺伝子(疾患感受性遺伝子といいます)は存在すると考えられています。
5.症状としては、レイノー症状(冷たいものに触れると手指が蒼白~紫色になる症状)、皮膚の硬化・色素異常や爪の異常、肺線維症など
6.治療と予後については、典型的な症状を示す「びまん型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局型全身性強皮症」のどちらなのかで異なります。「びまん型全身性強皮症」では発症5~6年以内に皮膚硬化の進行および内臓病変が出現してきます。不思議なことですが、発症5~6年を過ぎると、皮膚は徐々に柔らかくなってきます。つまり、皮膚硬化は自然に良くなるのです。しかし、内臓病変は元にはもどりません。ですから、発症5~6年以内で、できるだけ早期に治療を開始して、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要なのです。一方、「限局皮膚硬化型全身性強皮症」ではその皮膚硬化の進行はないか、あってもごくゆっくりです。また、例外を除いて 重篤な内臓病変を合併することはありませんので、生命に関して心配する必要はありません。
7.「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と「限局皮膚硬化型全身性強皮症」を区別する最も大切な目印は、自己抗体の種類です。自己抗体とは自分の細胞に向けられた抗体です。全身性強皮症では抗セントロメア抗体(※)、抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体(※)、抗U1RNP抗体(※)、抗RNAポリメラーゼ抗体(※)などが検出されます。抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼ抗体は「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」の目印であり、一方、抗セントロメア抗体は「限局皮膚硬化型全身性強皮症」の目印となります。